Agents of Artifice :A Planeswalker Novel
http://www.wizards.com/Magic/Novels/Product.aspx?x=mtg/novels/product/agentsofartifice/sample>の
序章に続きまして、今回は第一章のp4-7までを訳出します。
原文を重視するためかなり直訳調の部分も多いです。
あくまで英語力の低い筆者の勉強として訳してますので全くの誤訳や勘違いなども存在する可能性があります。もし見つけられた方はご教示くださると嬉しく思います。
Agents of Artifice(策謀の工作員)
Chapter 1 :p4-7
結局のところ、素面の時より酔っている時の方が、もうこれ以上アヴァリック地区に惹き付けられることはなかった。汚らしい小石の舗装や半ば朽ちた屋根、または道を覆った泥がイルムベリーワインの靄によってこれ以上魅力的になることもなかった。そして、お神酒の甘い芳香は、大気に漂う淀んだ腐敗臭と目を潤ませる瘴気を打ち消すほどは長く残ってはなかった。うずくまる家々と店の街並みはよろよろ歩きの老人のように道路の上へ傾いており、それらの間の広い隙間は歯が抜けた跡を髣髴とさせた。おそらく、唯一の埋め合わせになるものは、全ての晩に驚くほどに蚊が出ないことだった。普通、雨が降るとアヴァリックの不安定な地盤である湿地帯と下水から悪疫めいた群れをもたらすのだが、どうやらそれらでさえ今夜は隷属の終りの祭りのために休息しているようだった。
カリスト・ロォカは度が過ぎない程度に酔っ払うために大した量の小銭を費やしたが、世間からの拒絶を我慢できるように心を切り替えることへの酷い侮辱を感じて苦々しい目で辺りを見回した。
その一方で、カリストの願望や酔った知覚に合わせることを撥ね付けるものは、アヴァリック地区だけではなかった――そこら一帯の頑なさと、ある鴉の濡れ羽色の髪の魔道士のことは、この地区がきっかけだと彼はかなり確信していた。
彼がビターエンドの酒場の食堂に置いていったあの女のことを考えると、カリストの胃はとても痛々しいほどに締め付けられ、彼は腹を掻きむしった。しばらくの間、その締め付けが喉に塊となって降りてくるのを、彼は屈んで待っていた。手が震える――彼はそれをいかなる感情によってではなく、いくつも重ねたワインの盃のせいにして、顔から腹立たしい表情を拭い去った。
彼をこのようなざまに追い込んだ男を呪って唾を吐いたのはこれが初めてではなかった。一年足らず前には彼はラヴニカで最も高い尖塔の陰に住んでいた。そして、今は?今、彼の周りの建物の殆どは影を投げかけられるほど高くはなかった。今の彼は下水か大きな地区の下町よりも低地で埋め合わせをしなければならなかった。
それは、寛大な人物でさえ苦く生々しい屈辱を味わうには十分であり、そしてカリストは一度もそこまで寛大であったことは無かった。
それでも、彼女がただ「いいわ」と言うのならば、全てはその価値があっただろうが……。
カリストのワインで酔わされた心からはすぐに呪詛は忘れられ、彼は自分の足元を見据えた。バジリスクの皮のブーツは彼が持っている僅かな贅沢品のひとつだったが、雨後の敷石から常に滲み出る湿地の泥によって覆われて、元の色を見ることはできなかった。ビターエンドの方向からまだ微かに隷属の終わりの祭りの歌とダンスが聞こえてきて、道全体にわたって居酒屋の残飯がへばり付いているのを何度も罵った。酔いが醒めたようには見えないくらいにまだゆらゆらした強張った足取りで、彼は再びのろのろと歩き始めた。
アヴァリックは実際そんなに大きな地域ではなく、その地域の近隣のいずれもそうではなかった。それはわずかな場所を除いて、地下の沼が水溜りになって淀みとなった地区であり、同じような他の地区に囲まれていた。ラヴニカの年経りた顔の上の、醜く、悪臭を放つ嚢腫。人々がここに住んでいるのは、彼らが引っ越せる余地のある他の場所はここよりももっと悪く、いくつかの小さな菌類の園は彼らを食べさせるのに十分であったからだ。カリストを酔っ払わせる原因となった女と同居している家からアラヴィックの向こう端にあるビターエンドは普通ならば歩いてほんの二十分くらいのはずだった。
もちろん『普通ならば』ということは、足を引きずって歩くカリストの現状や、既に同じ角を間違った方に二度も曲がっているという事実が無かった場合に限られるが。今や三十分以上は優に過ぎ、聞こえてくる微かな唄う旋律は、依然として遥か遠くにあった。彼の目はちくちくしだして潤み始めていた……。
そして彼は本当に、本当にどこかワインを吐き出して素の状態に戻るために人目を避けられる場所を見つけなければならなかった。カリストが下を向いて足元に目をやり、程近い路地を見渡すと――殆ど足首まで沼の水とゴミの混ざり合ったもので浸かっており、「くそったれ」と短くつぶやいて大股で歩き去った。彼がもう少し酔いが醒めていたか、もしくはもう少し酔っていたのならば、彼は下水ゴブリンか、ギルド支配を終わらせる戦いを生き残ったゴルガリ団の菌類のクリーチャーに出くわすことを心配しただろうが、彼はそうしなかったし、そうすることもない。カリストは深く溜息をついて、その道で出くわしたもう一人の大股歩きの仲間のために、ぎりぎりで誰かの家の染みだらけの背壁に向かってさっとよろめき下がった。
「ガリエル」
彼は素面に見せかけようと腰を伸ばして、新しく来た者へ挨拶した。
「誰だ……カリスト?お前は夜遅くまでこんな路地で何をしてるんだ?まぬけどもが不安じゃないのか?」
朦朧とした酔いの中で、むかつくようなクリーチャーの一団が彼の後ろにいると考えるとカリストは眩暈がした。何も現れなかった時、彼は更に別の吐き気がこみあげてくるのをやり過ごして、ゆっくりと泥まみれの道に座り込んだ。
作り笑いを抑えることの出来なかった友人を彼は苛立たしげに見た。肉体的に、ガリエルは全てカリストとは違っていた。彼の色黒い肌とカリストの生来の色白さ、ずっしりとした筋肉に覆われた体とカリストの筋張った体。例外的にカリストが持つことが出来たのは平均より高い背丈だった。そして、カリストの海青色の目とは対照的な土色の目を持っていた。ガリエルは綺麗に整えられたあご髭を持っていたがそれは今の流行に則りたいという類の願望によってではなかった――ラヴニカの裕福な流行様式はこの低地では余り意味を成さず、単に彼は髭剃りをとても嫌っていたからだった。
「どんなナイフだろうと俺の顔に近づけるのなら」
かつて彼はカリストに言った。
「そいつの端でソーセージを食べる方がましさ」と。
髪が似たようなウッドブラウンの色合いではなかったなら、彼らは全く異なった種にされていたであろう。
ガリエルはカリストの顔に弱弱しい月の光と左拳に留めた石炭の燃えさしの輝きが閃いてよぎったのを見た。彼は友人の横で手を下ろし、汚らしい道に身を屈めた。
「これは祝いの酒に見えないな」
彼はすぐ近くの建物にもたれかかって意見した。
カリストは顔を無表情かつ無感動に保つ努力によってほとんど慄きながら彼を見上げた。まるで何か言おうと挑むかのようにガリエルを睨みつけた。
しばしの間の沈黙。それを破るのは広い道路と安っぽい長屋の間に見える沼の僅かな水溜りを通り過ぎる尖塔のコウモリの呼び声のみだった。
「あの女は『いいえ』って言ったんだろう、違うか?」
ガリエルはようやく言った。
カリストは肩を落とした。
「彼女は『考えておく』ってさ」
ガリエルは耳に血が脈打つのを感じたが、友人のために憤慨する替わりに強いて笑顔を見せた。
「まあ、少なくとも『いいえ』じゃないんだな?」
「ああ、来いよガリエル!」
より背が低い男は泥を勢いよく叩いた。
「リリアナが時間をかけてその事を考えるとして、考え終わるのがいつになるか分かってるのか?あの女はその瞬間に何もかもやっちまうぞ」
彼は溜息をついて、もう一度喉に上がってきてそこに留まるように思えた塊を呑み込もうとした。
「『私はそれについて考えておく』ってことが『私は拒絶によってあなたを傷つけたくないの』って意味だってことを、お前は俺と同じくらいよく知ってるよ」
(ここまで。p7-10に続く)
更新お疲れ様です!まゆげです。
返信削除うう…このへんは、ちょっと言い回しが難しい…
最後の男たちのセリフとか、何を意味してるのだろう?
>カリストを酔わせる原因となった女と同居
すごい変な単語に反応してしまったんですが、
これって…やっぱLさんなんでしょうか…
そうか…同居か…
というか、
この時点でのカリスト君の中身ってまさかJ君…
伏線がおいしすぎて考えるだけでメシウマ状態です。
続きも楽しみにしています!
ありがとうございますー。
返信削除英語力や翻訳能力がないくせに無茶をやったせいで読みにくくて申し訳なく…。
序盤は本当に文章も内容もややこしいのですよね。
サルベフォーラムや公式コミュで見かけましたが、英語が母語の人でも序盤がよくわからないって人もいるようで。
話が進むに連れてだんだんどちらも明快になってくるのですが…ここさえ頑張れば後から「あー!」って驚きや発見が待ってます。
最後の方の台詞は、リリアナによる男女関係の駆け引きに翻弄されてるカリストくんと、それを苦々しく思ってる友達のガリエルくんって感じでしょうか。