そこにもある通り、テゼレットは手駒にするはずのジェイスによって精神を破壊され、連合を放逐されることになりますが、時系列的にその後の話となるコミックや記事を見るとジェイスがまだ連合に所属している描写があります。
そして、ボーラスは「テゼレットが掌握したと信じるにまかせていた」という表現も気になるポイントです。
ここからは小説「Agents of Artifice」終盤と「Test of Metal」前半のネタバレが含まれています。特に「Agents of Artifice」にはかなり踏み込んだ内容です。
ご覧になる場合はその点をご了承の上でお願いします。
「Agents of Artifice」終盤、ジェイスがとある選択をしたことにより無限連合は解体されます。しかし、「ヴェールの呪い」以降では彼は解体されたはずの無限連合の支配者となっています。「Test of Metal」では支配者として結構しっかりやっていっており、PWの部下までいます。
日本では引継ぎ自体も特に気にされてはいないようですが、「ヴェールの呪い」はかなり海外ヴォーソスの間では混乱を招いたようです。
「この話ってジェイスが連合にいた頃の過去話?」「過去話なら何でリリアナのこと知ってるの?」「これってどうみてもジェイスは連合で命令下してる方の立場だよね…」「WotCはAoAのラストを忘れちまったのかい!?コンティニュティがなってないよ!」「あの選択こそが俺がジェイスを素晴らしいやつだと思った理由なのに」などとガラクとリリアナそっちのけで大揉めでした。
その状況で公式コミュニティに降臨したのがクリエイティブチームのディレクターであるBrady Dommermuthです。
ちなみに新世代ウォーカーのことを海外では「Neowalker」と呼びますが、「Bradywalker」という呼び方もあります。PWの弱体化設定を作った彼への恨みが篭った呼び方(あんなのプレインズウォーカーじゃないやい><みたいな)だったようですが、今はどのように使われているのかはよく判りません。
公式コミュニティでの彼の発言の関連部分をざっと訳してみます。
Brady Dommermuth 2009年7月28日 10:57PM(後略、訳ここまで)
ジェイスにはテゼレットの地位を引き継ぐという意志は全くありませんでした。
しかし「Agents of Artifice」が終幕間近になった時、彼は次にどうすればよいのかを考えなくてはなりませんでした。そして、ラヴニカに帰ることを決断します。
今となってはラヴニカ支部は彼にとっては最も「家」に近いものでした。そして帰った時に、支部の残党の工作員や職員たちが、彼によって統率されるのを望んでいることに気が付きました。
不本意ながらも、彼はその役割を果たすことを認めました。とはいえ、彼にとってはあまり気分の良いものではありませんが…。
ええ、これらはすべて「画面外」で起こります。私はこれを「後付け設定」とは見なしてはいません。今でも私たちは本やコミックでどの部分を書くべきかや、書く必要はないかを判断しようとしています。
この発言から鑑みるに、行く宛てもないからラヴニカ支部にとりあえず戻ってみると、支部の残党のみなさんに「解散とかいきなり言われても困るし…。何とかしてくださいよベレレンさん、あなたPWなんでしょ?」と連合支配者の地位を押し付けられ、本当は嫌だったんだけど断れなかったようです。その割には巻物の情報を探させたりとリソースを有意義に使っているようですが。
「後付け設定(retcon)」とは「retroactive continuity」のことで、要は「前作の出来事である○○は、実は××だったのだ!」などと、起こった事実はそのままで(continuityの維持)理由付けや解釈のみ遡って(retroactive)追加するということです。ただし、あまり良いニュアンスで使われない場合も多いようです。
MtGで例えるならば、ミラディンに対するミラディンの傷跡です。直接的にretconという単語を使っている記事がありました。
Thank You Sir, May I Have Another
Making Magic: by.Mark Rosewater 2010年8月30日http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/mm/106
おかわりをもらえるかね(翻訳記事)
http://archive.mtg-jp.com/reading/translated/008388/もう一つ、このBradyの発言に対しての「Agents of Artifice」の著者Ali Marmellのレスを訳してみます。
Mouseferatu(訳者注:Ari MarmellのHN) 2009年7月29日 12:32PM(訳ここまで)
それは面白いですね。(もちろん皮肉で言ってるんじゃないですよ)
私はジェイスが連合の残された支部の一つを行使するという考えはあり得ると思いますし、必ずしもAoAにおいてのキャラクターの成長を台無しにするわけではないとも思います。
それが、
a)彼が次に何をすればよいのかを考え付く間の一時的な手段である
b)たった一つの支部に限ったことであって、新しい多次元間陰謀団の基盤となることはない
とするならば、以前の彼の決断とは全く矛盾しないと思います。
特に『リリアナの問題』についての解決策を求めて組織とそのリソースを利用するのに、リーダーとして勤めるという立場が彼にとって役に立つ限り。
(ジェイスは成長したかもしれませんが、彼はまだ他の人々をある意味『利用して』います。私は彼がその部分を自分自身から完全に捨て去るとは思えません)
日本的な観点で考えますと「残された連中を責任とって面倒をみるはめに」という解釈になりそうですが、『リリアナの問題』(悪魔などの契約に縛られている)を解決するために利用する、というのもなかなか面白い考えだと思います。
『利用して(user)』と強調されているのは、Marmellの著書である「Agents of Artifice」チャプター20(廉価版p235)よりKallist Rhokaによるジェイス評である
"Jace is a weird one. He uses people he should trust,trust people he should avoid,and avoids people he could use."(ジェイスはおかしなやつだ。あいつは信じるべき人たちを利用して、無視すべき連中を信じて、利用できる奴らを無視するのさ)
も踏まえてではないかと思います。
話はそれますが、この台詞は彼ら二人のキャラクター性自体だけではなく、彼らの友情を考える上でも非常に興味深い言葉だと思います。こんなことを言った上で、Kallistは「俺たちは親友で、相棒で、おそらくは兄弟みたいなもの」と言い切るだけに。あとはフレイバーテキストにできそうなところも。
そして、テゼレットが彼らの関係やジェイスにとっての友情について何かしら含みのある発言を「Test of Metal」ですることや、発売無期限延期のリリアナ小説「The Curse of the Chain Veil」でも彼の友情についての含みのある表現が宣伝文にあったりと、色々考えさせられます。
一方、ボーラスの件ですが、散々テゼレットを怖がって逃げ回っていたジェイスをテゼレットに反逆するようにけしかけていたのはリリアナであり、リリアナにそうするようにさせたのはボーラスだからです。
ジェイス自身はKallistが殺されようとも、テゼレット不在のラヴニカ支部を破壊することで報復を済ませようとする(それでもテゼレットを大変怒らせることは判ってはいましたが)くらいにテゼレット本人と対決することを恐れていました。
彼がテゼレットから受けた虐待やエスカレートする狂気への恐怖と、自分の力を高めてくれた教導者に対しての畏怖を乗り越えて対峙するには更なる死体の山が必要だったのです。
つまり、ボーラスはその気になればいつでもテゼレットを排除できると思っていたから、「信じるにまかせていた」というわけです。そして、連合はボーラスの持ついくつかのネットワークの一つに過ぎないのです。
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