Agents of Artifice :A Planeswalker Novel
Sample chapter by Ari Marmellhttp://www.wizards.com/Magic/Novels/Product.aspx?x=mtg/novels/product/agentsofartifice/sample
の序章、第一章p4-7、p7-10、p11-13、p13-14に続きまして、今回はサンプルチャプターラストのp15-16までを訳出します。
原文を重視するためかなり直訳調の部分も多いです。
あくまで英語力の低い筆者の勉強として訳してますので全くの誤訳や勘違いなども存在する可能性があります。もし見つけられた方はご教示くださると嬉しく思います。
Agents of Artifice(策謀の工作員)
p15-16
ますます狼狽させられたのにも関わらず、二番目の賊は彼の足へのテーブルによる衝撃から持ち直して、迅速に攻撃の間合いに入った。唸り声をあげ、彼は華奢なディナーナイフではどうやろうとも受け流して止めることの出来ない切り裂き刃を高く掲げて、降り下ろした。
リリアナは自分のかよわい武器を持ち上げて応えようとさえしなかった。いや、彼女は長い間走って息切れでもしたかのように唇をまだ動かしていたが、その刃が降り下ろされたときに、彼女は左手をもたげて受け止めた。
その肉切り包丁は彼女のまっすぐに挙げられた手を貫いて引き裂くはずだった。そうなるはずであり、そうであったはずだったが、刃が頂点まで振り上げられた時にその手は黒く転じ、刃は影の鬼火によって突然に強く引かれて隠されたことによって、そうはならなかった。今頃はリリアナの手の肉を打つはずであったが、それは生者と死者の世界の間の地下へと引き離されて、あっさりと持ち去られていった。剣士は己の空っぽの拳を見つめて立ち尽くしていた。
リリアナは肩をすくめて二本の指を鉤爪のように曲げ、彼の見開かれて凝視する目にそれを突き立てた。致命的ではないが、彼に金切り声をあげさせて戦闘から離脱させるのには十分すぎた。
そして、まさしくその通りに、酒場は再び穏やかになった。リリアナの背を横切る不気味な象徴は現れた時と同じく、彼女の肌を元に留めて急速に薄れていった。ビターエンドから悲鳴をあげながら逃げ出したりはしていなかった祭りの面々が、力の抜けた表情でぽかんと大口をあけて無言で見入っているのを無視して、リリアナはただ思考だけで死霊の影を退散させ、倒れている賊から遠くに離れた。そこに居合わせた全ての中で、終わり無き闇の中にそれが螺旋を描いて送還された時の悲痛な叫びを彼女だけが聞いた。
彼女は倒れた椅子の上に片足を載せて膝に身をもたせかけて、まるで彼女が羽根でも生やしたかのように見上げるガリエルを曰くあり気に見下ろした。
「な…何をして…何だ?」
「いい質問ね」
リリアナは彼に言った。
「あなた、大丈夫?」
「死にはしないさ」
「そう決めるのはまだ早いわ」
彼女は面食らった友人へと手を伸ばし、立たせようとした――そして彼女へともたれかかりはじめた彼の手を強く引くと、再び彼は倒れて顔から床に突っ伏した。床板はその衝撃によって震えた。
「まだちょっと問題があるわね」
彼女は人を取って食うような微笑をして言った。
「それともあのドアまで大股で歩いていって、ありとあらゆる下品な呼び方で私を大声で呼ぶのかしら」
「俺は――あんた……」
ガリエルは鼻から滴垂る血を落とすというよりもむしろ擦りつけるように、自分の顔を手で拭った。
「リリアナ、みんな見てるぞ」
「あなたが私に厭らしい言葉を投げつけていた時にはそれを気にしてなかったでしょ」
集まってきた野次馬と傷ついた賊たちの中で、彼の友人の女友達が本当にどれだけまともじゃないかということを考えると、ガリエルは再びあんぐりと大口をあけることしか出来なかった。そのことについての疑問を尋ねようと彼が口を開いたが――木の幹と同じくらいに太い杭が荒っぽく飛び込んできて彼の頭の数インチ先の床に突き刺さり、木切れの飛沫で息を詰まらせただけだった。
突然の衝撃からびくりとして離れた時でさえ、リリアナは機械仕掛けのクロスボウのかちりという動作音と風を切る音を聞きつけ、戸口に立つ人影を睨めつけた。
彼らは今度は三人で、先ほど彼女を襲撃した二人組を激しく彷彿させた。リリアナは三組の同じ自動装填式の武器を見据えて、ただこの三人が断然に良い装備をしていることを認識した。
「次のは」
真ん中の男は彼女にしゃがれ声で告げた。
「その男の頭を撃ち抜くぞ」
彼の視線は床の上の、一人は息絶え一人は盲目となった二つの姿の間で揺れて、彼は表情を堅くした。
「魔女め、俺たち三人全てを止められるくらいお前も速くはないだろう」
彼女は今度はしかめっ面をした。
「じゃあ彼を撃てばいいじゃない。彼は私にとっては何でもないし、その凝ったクロスボウがあっても次を装填する暇はないと言い切れるわ」
「ああ」
その男は思わせぶりな声で言った。
「だが、そいつは誰かにとっての何かってことなんだろ?」
リリアナのしかめっ面は更に深くなった――彼女の肩はがっくりと下がり、彼らがそれを見たのも判っていた。
「あんたたちは一体何が欲しいの?」
「俺が入用なのは、俺の手下たちにお前がしたことへのお返しに、お前に杭を打ち込むことだ」
その賊は彼女に通告した。
「しかし、一体何が起こったんだ……」
(策謀の工作員 サンプルチャプター 完。ハードカバー版p17、ペーパーバック版p19へ続く)
以上をもちまして、「Agents of Artifice :Sample chapter」はこれで訳出終了となりました。
ここまで拙い訳を読んでいただきありがとうございました。
今回も一部、あいしゃ様にご助力とご助言を頂きました。この場を借りてお礼申し上げます。
一つの文に描写を積み重ねていくAri Marmellの文体は原語で読むととてもビジュアル的で、久遠の闇、ラヴニカの豊かな街の賑わいやうらぶれた下町の喧騒、静けさと荒ぶる激しさをあわせもつ神河など様々な世界への想像が膨らむのですが、同時にその点が日本語にするのを難しくしています。
彼は元々はD&DなどのTRPGのライターであるだけに、この作品にはSword&Sorceryなファンタジー世界がとても生き生きと描かれています。自作を必ずと言っていいほど酒場での喧嘩シーンで始めると本人が言うだけに、飲食やそこに集う人々の描写が多く、他にもインテリアや服飾への言及もあって、豊かで成熟した文化を持つラヴニカという次元と多元宇宙という世界観にマッチしていると思います。
しかし、このサンプルチャプターでは主人公が誰か判らなくなるというのは非常に残念です。この小説の主人公はリリアナではなく、名前が一回も出てこなかったジェイスなんです…前知識無く読みますと、「カリストって誰?しかも途中で出てこなくなったし…」ってなりますよね。
その影響からかは判りませんが、PWノベル第二弾の「Purifying Fire」のサンプルはいきなり途中から始まっています。燃え尽きぬ炎でいいますと第一話の途中のサミールと森へ行った場面です。
The Purifying Fire :A Planeswalker Novel
Sample chapter by Laura Resnickhttp://www.wizards.com/magic/novels/product.aspx?x=mtg/novels/product/thepurifyingfire/sample
それを抜きにしましてもAoA序盤は本当にややこしく、英語が母語の人でも判らない方もいるようでして、公式コミュやサルベのフォーラムで何度か「Agents of Artificeの序盤で一体何が起こったの?」スレが忘れた頃に立つほどです。
ただ、何が起こったかを理解できた時、そして全てを読み終わってまた序盤を読み返した時にはこれまで疑問であった様々な描写が腑に落ちたり、新たな発見がまた生まれたりと本当に気持ちいいですので、今更かもしれませんがここでは敢えてネタバレはしません。
そして、サンプルチャプターの範囲でもAoAの最大の魅力と私が思っています「久遠の闇や下町の光景などのビジュアル的な空間描写」「街や人々などの文化描写」「ただ強力な魔法を使うのではなく、その使い方によってキャラクターの機知を表現」は十分に発揮されています。
本編については、とにかくジェイスの意外性が凄まじい!一般的なイメージと思われる「他人の精神を弄ぶ、クールで傲慢で陰気なフード野郎」とはかなり違った性格をしています。そして、テゼレットとの関係やリリアナの人間性もかなり意外です。
とにかくこの小説は面白いので実際に読んでいただきたいです。
この三人のうち誰か一人でも好きな方は絶対に損しない内容だと思いますし、面白そうなシーンをつまみ読みでもPWたちの意外な姿が楽しめます。お値段もベレレン1枚よりも安いくらいでお手頃ですし!
今更ですがお疲れ様ですー! まゆげです。
返信削除蛹さんの訳し方も手伝って、
リリアナの性格がいやらしくないのが
とても嬉しかったです。
カードのイラスト見た限りでは、
血も涙も無い性格だと思っていたのですが、
感情的があって人間的なのにびっくり。
あと意外と優しい(笑)
うっかり、黒ビッチだってことを忘れてしまいそうですw
長文、本当にお疲れ様でした。
ありがとうございますー!
返信削除私の訳し方というよりも、元の作品自体がリリアナをそういう風に書いていないのが大きいと思います。
リリアナは行動原理は単純だけど、それに至る事情やその経過が複雑という、捉えるのが難しいキャラクターな気がします。
リリアナも意外なまでに人間的ですよね。
しかし、さすが黒の女という所を見せつけてくれるあたりも一筋縄ではいきませんね。