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2011/03/29

【MtG:PWノベル私家訳】策謀の工作員 サンプルチャプター p13-14

Agents of Artifice :A Planeswalker Novel
Sample chapter by Ari Marmell
http://www.wizards.com/Magic/Novels/Product.aspx?x=mtg/novels/product/agentsofartifice/sample

序章第一章p4-7p7-10p11-13に続きまして、今回は第一章のp13-14までを訳出します。
原文を重視するためかなり直訳調の部分も多いです。

あくまで英語力の低い筆者の勉強として訳してますので全くの誤訳や勘違いなども存在する可能性があります。もし見つけられた方はご教示くださると嬉しく思います。



Agents of Artifice(策謀の工作員)
Chpapter 1 :p13-14

 なんと、それは重く、そして肉切り包丁のような刃か。

 テーブルの各側面に向かって一人が向かったが、彼らの前進は悠々と、さりげなくでさえあった。リリアナの回避の速さにも関わらず、彼らは明らかに多くの抵抗を予測していなかった。

 そして、リリアナに加担するであろう何者かに関しては、彼らは間違ってはいなかった。彼女の最も近くにいた連中は、それぞれの性分に最も相応しいように、ただ逃げだしたか、悲鳴をあげたか、衝撃のあまり立ちすくんだ。カウンターの背後からイシュリがずっしりした棍棒を手に現れたが、彼女は来るべき刃傷沙汰から後ずさりする人だかりの塊によって邪魔されて、全てが終わる前に彼女がテーブルに行き着く方法は無かった。リリアナにただ撥ね付けられた求愛者は立派なことに、酒場の向こう側へ戻って拳を挙げたが、彼はもうあまりにも酔っており、何とか乱闘騒ぎに及んだとしても重要な貢献をするのは覚束無かった。

 しかしリリアナは誰の助けも必要とはしていなかった。僅かに身を屈め、ほとんど威嚇にもならない、しかし唯一の彼女の武器である逆手に持ったディナーナイフをずらせた。彼女は唇を殆ど動かさず、ほとんど聞くことが出来ないくらいにそっと、低く、朗々とした詠唱が始まった。まるで彼女の皮膚の内側から燃え広がるように、背中の更に下からわたって抽象的な刺青の紋様がより一層精巧な意匠を示して彼女の首を登った。

 恐慌に陥った酒場の周囲の雑音からそれを聞くことができたのなら、その響きこそが彼女の襲撃者を躊躇わせただろう。その音色は超自然的で、陰鬱で、これまでにリリアナが発したどの声よりも遥かに深かった。その音節はあらゆる既知の言語の単語を成さなかったが、しかしそれらは精神を飛び越えて、聴く者の魂へと恐ろしい意味を直接浸透させて伝わった。

 しかし、己を餌食ではなくむしろ捕食者だという考えに惑わされた愚か者たちは、それを聞くことが出来なかった。そして、もし彼らが聞いていたとしても、それが役に立つには遥かに遅すぎた。まるで革紐の端に噛み付くかのように、リリアナは自分の刃物で霊気の中に力ある言葉を吐き掛ける仕草をした。、ビターエンドの揺らめく灯火の中でもう一つの影がテーブルの下で人知れず動き、死者たちが己の領域を超えて深淵の裂け目から召喚された。信じられない程に長い指がさらに、さらにまた伸ばされて、テーブルの二本の足を掠めた。この瞬間に百年が経過したかのように朽ち果てて、腐敗して腐葉土と化したそれらはお互いに折り重なって倒れた。残りのどっしりした木肌は、賊の一人の脹脛に激しく打ち当たって横にひっくり返った。彼は苦痛の叫びをあげ、足の周りでカタカタと鳴る少数の皿とライ麦黒パンの食べかけの塊につまずいてもたつきながら、予期せぬ強襲から離れた。

 その叫びによって、二番目の男の注意力は心臓が一打ちもしない間だけ揺らいでリリアナから離れたが、それで十分だった。低く身を屈め、彼女は彼の広げた腕をナイフの縁で薙いだ。服地と肉が鋸歯状の鋼のもとで引き裂かれ、賊は食いしばった歯の奥で苦痛を呪うのを押し殺せなかった。血が噴きだして、彼の手首で細長い腕輪のように玉となった。それは刺すように痛むが、害にならない浅い傷であり、彼の標的の攻撃がいったいどれほど効果がないか裏付けられたかが判ったとき、苦痛に歪められた顔は残忍なにやけ笑いに転じた。

 しかしながら、リリアナの攻撃は彼を害することを意図したわけではなかった。それは単に血を流させようとしただけだった――そして、床をありえないことに横切って滑る、目には見えない影となったものの注意をひいた。汚らわしい腐敗が傷口から浸透し、その男の腕の筋肉と血管の周りで絡み合った。そして、壊疽性の腐食が彼の肉体を走った時、人間とは思えない苦悶の叫びを上げた。刀は力の抜けた指から落ちて彼の足元の床の木に突き立ち、肌は病的に青ざめ、血は黒く粘着くように変じた。肉は硬くなってひびが入り、黄色くなった膿のしたたりを排出するために裂けた。売剣は膝まずき、胸元で死にかかっている腕を握って赤子のように泣き叫んだ。

 リリアナは彼を一瞥さえしなかった。彼の苦しみはすぐにも終わるだろう――屍術の腐敗の広がりが彼の心臓に達したときに。

p15-16に続く)

7 件のコメント:

  1. 更新お疲れ様です!まゆげです。

    リリアナさんがとっても強くて頼もしい件について…。
    やだ…かっこいい…。
    このシーンだけ切り取ってみると
    女一人で悪漢どもを華麗になぎ倒すヒーローにしか見えません!

    へぇ~こういう風に戦うのね、と堪能させていただきました。

    そして、派手に騒がないところにもときめきました。
    (テーブルを腐らせて注意を引く、自分から直接手を下さない)
    (そういえば、カード能力と合ってますね!今気がついた)

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  2. ご覧いただきありがとうございます。

    あれ、この本の主人公ってだれだっけ…?状態なくらいかっこいいリリアナさん。
    このシーンに限らず、ただ魔法の力が強いってだけではなくて応用力とか使い方が凄いという描写があるのがAoAの魅力だと思います。

    カードの後から書かれた小説なので、うまくカードの能力を描写に活かしてますね。リリアナとジェイスくっつけるっていうのも、効果のシナジーからきてるんじゃないかって考えられますし。

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  3. 泥酔カリストとは裏腹にかっこいいリリアナさん。

    ジェイスとリリアナ、そういえばここまで素晴らしくカードがシナジってるカップルは初めてかもしれません。「能力の方向性が同じ(除去とか軽減とか)」なら何組かいましたが。設定が先なのかカードが先なのか、ダグに聞いてみたい所。

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  4. Ari Marmmelとダグへのインタビュー記事によりますと、ジェイスやリリアナやテゼレットは設定がほとんど決まってなくてAoAのために設定を考えたみたいですよ。
    無限連合はほとんどがMarmellの設定だとか。

    http://fantasybookcritic.blogspot.com/2009/08/sharing-world-part-ii.html

    サルカンのストーリーも入る予定だったとか、いろいろ興味深い内容です。

    なので、シナジーからカップルにされたっていうのは間違ってないかもしれません。確かそういう記事がローウィン時代にありました。

    http://www.wizards.com/magic/magazine/Article.aspx?x=mtgcom/daily/cm94

    「Hold Me, Thrill Me, Kiss Me, Mill Me」ってw
    この辺のネタはちょっと考察記事にできそうですね。

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  5. あ、すみません補足です。上のURLは二つの小説の話をしてまして、サルカンのストーリーが入る予定だったっていうのは「Alara Unbroken」の方です。

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  6. MTGの背景世界というものは、設定から小説やコミックを創作し、さらに逆に、小説・コミック等をソースとして、公式設定へフィードバックをしています。

    この過程を初期からずっと繰り返し続けているんですよね。

    だから多元宇宙は非常にクリエイティヴな世界だと思うんですよね。

    我々のダグ・ベイヤーやスコット・マクゴフ、マット・カヴォタ、そしてピート・ヴェンタース(!)が引き継いできたからこそです。

    それを追い続けるファンにとっては、
    険しくて高くて頂上はなかなか見えないし、寄り道蛇足も一杯あるけれど、ひと山越えると強烈な感動が必ず待ってる、ある種トマス・ピンチョンやスティーヴン・キング的読書体験に似た面白さとでも言えるでしょうか?

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  7. ひとつ何かを調べますと、芋づる式にいろいろ調べないといけないことが出てきたりしまして、MTGの背景世界の奥の深さには本当に驚かされます。

    昔から研究なさってる方には本当に稚拙な翻訳や考察だと思いますが、少しずつ色々と勉強していきたいです。

    >読書体験
    私にとってはニール・ゲイマンやジョン・クロウリーを読み解くのにも似てますね。
    ほんのささいな描写が実は伏線だったり、のちの何かを暗示していたり。

    一冊の単位でもそうなのですが、実は長年の背景世界の歴史にも連なっている描写を発見したときには「うおおおお!」ってなります。

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